
1. 第1、XのYに対する、盗品回復請求権(193条)としての甲引渡し請求
1.1. 1、Yの即時取得(192)は成立
1.1.1. 193要件も充足
1.2. 2、Yは抗弁として代価弁償権(194)を主張
1.2.1. ⑴194条該当
1.2.2. ⑵代価弁償権の性質
1.2.3. ⑶抗弁権であることは文言上明らか。
1.2.4. さらに同条の趣旨は、善意であるにもかかわらず193条によって占有物の返還を免れない占有者の利益を確保して動産取引の安全を保護することにある
1.2.4.1. よって、返還の前後を問わず代価弁償を求めうるし、代価弁償されない場合は占有を確保できると考えるべき
1.2.5. 抗弁権と請求権の性質を併せ持つ
1.3. 3、よって、Yの反論は認められ、XはYの支払った代価300万円を弁償しない限り請求不可
2. 第2、XのYに対する、果実返還請求(190条1項)としての訴え提起時以降の月25万円の甲使用利益相当額の返還請求
2.1. 1、Yが「悪意の占有者」(190条1項)と言えるためには、Xの甲所有権(=「本権」189条2項)が認められる必要がある
2.1.1. ⑴そこで原所有者が盗品等の回復するまでの2年間(193条)の占有物の所有権の帰属が問題
2.1.1.1. 現所有者に帰属
2.1.1.1.1. 192条の適用がそもそもない
2.1.2. ⑵回復請求権者は「被害者又は遺失者」であり、原所有者に限定されない。(193条)
2.1.2.1. 仮に「被害者又は遺失者」が賃借人などなんら所有権を有したことのない者の場合、所有権を「回復」するとするのは不合理
2.1.3. よって、193条適用の場合は192条の要件に該当する即時取得者は回復請求権が消滅するまで占有物の所有権を取得しないと考えるべき
2.1.4. したがって、前記2年間の占有物の所有権は原所有者に帰属する
2.1.5. ⑶よって、原所有者Xの甲所有権は認められるのでX請求は認められるように思える
2.2. 2、これに対して、Yは194条によって代価弁償までの自己の占有物の使用収益権が認められるので、その利益を返還すべき義務はないと主張
2.2.1. ⑴善意の「占有者」(194条)は代価弁償されるまでの占有物の使用収益権は認められるか
2.2.2. ⑵「被害者又は遺失者」は代価弁償して占有物の返還を求めるか、その返還を諦めるかを選択できる地位に立つ
2.2.3. そうすると返還までの間の使用収益権を善意の占有者に認めない限り、被害者又は遺失者の選択が定まるまで占有者は使用利益を返還すべきか分からない不安定な立場に立たされ、前記194趣旨が没却される
2.2.4. したがって、善意の占有者には代価弁償されるまでの占有物使用収益権が認められると考えるべき
2.2.5. ⑶よって、善意の占有者Yにもこれが認められるので、その利益を返還すべき義務はない
2.3. 3、よって、Yの反論は認められ、X請求不可
3. 第3、前記結論によれば、Xは現時点で100万円の価値しかない甲を300万円で弁償しなければ甲を返還されないばかりか、使用利益の返還も求められないことになる
3.1. 1、そうすると帰責性のないXに酷なようにも思える
3.2. 2、しかし、その差額は盗取者Bに709で請求可能
3.2.1. またYが悪意の場合は194の適用なく、190条1項によって使用利益の返還請求が可能